フタロシアニンは染料顔料として利用される他、センサー、触媒、光ディスク、癌の光学治療薬として応用されている機能性色素です。この化合物の機能化のためには、Q帯と呼ばれる近赤外領域にある強い吸収の長波長シフトが重要であることが知られており、これまで多くの研究者により共役系の拡張、歪みやヘテロ原子の導入などが検討されてきました。
1) 以前当研究室では、1,4-ジアルキルテトラブロモベンゼンと単体硫黄をDBU中で反応させることにより、ジブロモベンゾトリカルコゲノール(1)が得られることを発見しました。そこで化合物(1)を出発物質として用いカルコゲン官能基を有するフタロシアニン誘導体の合成を試みました。その結果、4段階の反応でベンジルカルコゲの基を有するフタロシアニン(2)を得ることができました (The Journal of Organic Chemistry, 2004, 69, 4716)。
2) これまでにフタロシアニン(2)およびその類似化合物を用い、以下に示す方法により幾つかのトリチオール環(硫黄原子3つを含む5員環)を縮環したフタロシアニン誘導体を合成することができました (European Journal of Organic Chemistry, 2006, 1262)
3) 2)と同様の方法を用い非対称型のフタロシアニン誘導体の合成も行いました(Inorganic Chemistry, 2008, 47, 3577)。
4) 一方、これらに加え軸配位子を結合したフタロシアニンやポルフィリンの合成を試みています。関連する化合物としてダブルデッカー型のフタロシアニンを合成し報告しました(European Journal of Organic Chemistry, 2008, 5079)。
5) これまで4つのチオフェン環が3,4位で縮環したテトラアザポルフィリンの報告は1例ありましたが、この論文には構造を証明するデータは全く記載されていませんでした。そこで合成この化合物を合成し初めてその構造を明らかにしました(European Journal of Inorganic Chemistry, 2011, 888)。
6) 一方、最近当研究室では4つのジセレナジチアフルバレンが縮環したテトラアザポルフィリンを合成しましたが、この化合物の合成過程でベンゾジセレネートが得られること発見しました。この化合物は非常に安定であり、トロフェニルホフィンパラジウムとの反応ではニ核錯体を生成することが明らかとなりました (Inorganic Chemistry, 2014, vol.53, No.9, 4411-4417)。