ティーアンドケーの葛山さんは、三重県で会社を経営している。その葛山さんを岩手に結びつけたのは、まさにナノテクノロジーの技術だった。ナノテクノロジーとは、100万分の1ミリという極細な単位で、物質の加工や改良などを行う超精密技術である。携帯電話やパソコン、デジタル家電など高性能化と小型化・軽量化が進む中、重要な技術として注目を集めている。
このナノテクノロジーの技術に未来を夢見た葛山さんは、これはビジネスになると直感する。そして、その分野の専門である岩手大学工学部の森邦夫教授に、新しい技術を開発できないかと相談を持ちかけた。
森教授は快く共同研究を引き受けたが、その際に提示された条件が「岩手で事業化してほしい」ということだった。
「岩手で事業化することについては私も異論はありませんでした。しかし、当初目指した技術開発が進まなかったこともあり、途中から用途を変えて有機薄膜を使ったナノテク分野の展開でスタートすることにしました。私自身は岩手でもどこでも場所は選ばないが、技術を介して岩手と結びつき、その後の支援でもお世話になって感謝しています」と、葛山さんは設立の経緯を語る。
ティーアンドケーは、ナノスケールの有機薄膜を基本ベースとした表面処理加工などを行っている。中でも、独自技術である有機薄膜処理技術「ナノス(NANOS)」は、金属・ガラス・樹脂など、あらゆる素材の表面にナノスケールの有機薄膜を形成させ、表面の性質を改質することで、新たな機能を付与することができる。
既に、携帯電話、デジタルカメラ、プリンタ、複写機、液晶ディスプレイ、LED、半導体関連など様々な分野で利用されており、今後もナノインプリント分野やMEMS素子などへの応用展開が期待されている。
平成18年には有機ナノ薄膜処理装置「卓上型ナノセプター」の製造販売を開始。これはナノス(NANOS)プロセスを卓上サイズで装置化したもので、省スペースと低価格を実現した。機密事項の多い特定分野や、インラインを望む企業から引き合いがあるという。
現在、ティーアンドケーは本社を花巻市の起業化支援センターに置いて、企画立案、研究開発の進捗管理等を行い、その成果をもとに三重県のティーアンドケー三重工場で製造、さらに営業拠点として東京事務所を設置している。
それまでは、大手企業の下請け業が主体だったという葛山さんは、50歳を過ぎて初めて自社製品を売り込むという未知の分野に戸惑ったという。
「そんな時に花巻市の起業化支援センターから大きな力を貸していただきました。施設に安く入れてもらい、人的支援からどういう風に売り込んでいくかという方法論も含めて尽力いただいた。スタート時は岩手大学の先生からアドバイスや製品の評価をしていただきましたし、本当に産学官連携のお蔭です。それがなかったら、2、3年でギブアップしていたでしょうね」と、葛山さんは振り返る。
花巻起業化支援センターは花巻空港から車で3分余り。開業当初は三重と岩手を日帰りすることもあったという。今は信頼できる社員に任せ、月に2、3度花巻、盛岡に来ている。
「今の時代、どんな会社の人たちも飛び歩いているから距離は何とも思わない。岩手に本社はあるが、当社のターゲットは関東と中部圏、そしていずれは世界を目指したい。ベンチャーの最大の問題は資金。視界ゼロの中をどう飛び、どう燃料を補給するのか。余り賢く読みすぎても考え過ぎでもダメですね。適度なバカがいいでしょうか」と笑った。
かつらやま・とおる
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株式会社ティーアンドケー
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