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超硬合金は、硬質の金属炭化物の粉末を焼結してつくられる合金で、一般的には炭化タングステン(WC、タングステン・カーバイド)と結合剤(バインダ)であるコバルト(Co)を混合して焼結したものを指す。超硬合金は高温時の硬度低下が少なく、非常に磨耗しにくいことから、もっぱら金属加工用(旋盤加工、フライス旋盤加工等)切削工具の材料として使われている。
超硬合金の原料であるW(タングステン)、Coなどの希少金属(レアメタル)は、生産地が中国、アフリカに特定されているが、近年は輸入価格が高騰し、WC粉末の価格も高騰している。それなのに、金型などに使われた後は、すべて廃棄されている現状である。
岩手大学工学部で材料物性工学を研究する中村満教授は、10年ほど前のある日、宮古市の工場に金型の材料を見に行った。そこで、使用後の金型が産業廃棄物として捨てられていることを知る。当時、鉄が1トン5万円、それに対して希少金属は1キロ4万円ほどもする、まさにレアな商品だった。
「これはもったいないと思いましたね。お金を払って何トンも捨てているんですから。資源のない日本なのに、大きな資源の無駄使いをしている。これを何とか有効活用できないか、お金よりもったいないという思いが起業化に結びつきました」
中村教授は、平成9年から岩手県工業技術センターと共同研究を開始。環境問題が地球規模で取りざたされるようになり、資源リサイクルへの関心も高まりつつあった。その時流に乗り、平成14年には国の地域新生コンソーシアム研究開発事業の助成を受け、大型装置を設置。2年ほどの期間を経て使用済みの超硬合金を簡単な7工程の処理により、完全に市販の超硬合金に生まれ変わらせる技術の確立に成功した。
「工業資材として需要が高いのに、なぜ大手企業が取り組まないのか。リサイクルの必要性はみんな感じているが、余りにもコストがかかるんですね。リサイクルは、言葉ではなく資金が必要。きれいごとではできないのです」
現在、中村教授の「錫含浸法による超硬合金のWC微粉末のリサイクル技術」は特許出願中だ。現在、日本においてはこのWCリサイクル粉末及びリサイクル超硬合金の製造を企業化している実績はなく、一部大手企業で社内不良品を回収してリユースしている程度である。
リサイクル技術が確立すると、材料を提供するなど大手企業も乗り始めた。さらに宮古市の(株)冨士工業と姫路市の(株)サンアロイ工業の資本提供を受けて、平成19年7月にハードメタル株式会社を設立。
本格始動を前に、中村教授は「リサイクルには大きな工場が必要なので一歩踏み出すことができた。うまくいけば確実な産業になる。この技術をみんなに伝え、一人前の企業に成長させていくことが必要」と先をにらむ。当面は常駐社員2人からの出発になるが、3年後に4人雇用を目指している。
ミクロ単位の非常に微細な粉塵を扱う異質な職種であり、基準化されたものがないので試行錯誤も覚悟しなければならない新会社の厳しさはあるが、「でもね、研究開発は楽しいよ。大変だと思ったことはない」と中村教授は笑顔で語る。「何か足元に落ちていないかと思って見れば、いっぱいネタがこぼれている。それを探すには、ある程度素直ではなく、斜に構えて物事を見ることも必要ではないかな。視点を変えて見ることが大事なんです」
ハードメタルが製造するWC粉末は、地球環境対策として叫ばれているエコロジー、優しい環境、リサイクルの強力な推進役になり、特に資源量が少ない日本で大いに歓迎される技術である。
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なかむら・みつる
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ハードメタル株式会社
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