(株)ラングは、岩手大学工学部教授だった横山隆三氏の研究成果をもとに平成15年に設立された。横山氏は人工衛星を使って地形や環境を測定するリモートセンシング(遠隔計測)の第一人者として知られ、「表面の特徴線を抽出する技術」で特許を取得している。
ラングは横山氏の30年にわたる研究の知的資産をもとに、これまで文化財アーカイブ事業とディジタル空間情報事業を行ってきたが、最近は特に考古遺物の形状計測を中心とする文化財アーカイブ事業が好調である。
衛星画像による地形解析と、考古学がなぜ結びついたのか。そもそものきっかけは、考古学を学ぶ息子の真さんが横山氏の研究室を訪ねたことに始まる。「父の研究室に行ったら、人工衛星データを画像解析した山のポスターが貼ってあったんです。くっきり映っている山や谷の稜線が石器の割れ箇所に類似しており、これを石器の形状計測に役立てられないかとひらめきました」と、真さんは振り返る。
すぐに工業技術センターの機械で実験したところ、十分に応用できることが確認された。シーズとニーズが結びついた瞬間である。
現在、日本国内では年におよそ1万箇所もの遺跡調査が行われているという。この調査報告書には石器や土器などの遺物の実測図を掲載することが義務付けられている。実測図の作成は一般的に手作業で行われ、かなりの時間を要しているのが実状である。
ラングは、この実測図作成のプロセスの中から工学技術で対応可能な部分をピックアップし、横山氏の研究を活用して実測素図を自動作成するシステムの開発に成功した。
遺物の3次元データに高度な解析処理を施し、形の情報を多角的に抽出するこのシステムにより、高精度で正確な実測図の作成が可能になった。しかも、石器の実測図や土器破片の文様解析図の作図で、これまでの手作業に比べて5倍の効率化を実現。時間の短縮と人件費の削減につながった。この技術は遺跡・遺構の図面作成にも応用されている。
「遺物を図化する会社はほかにもありますが、この技術を使えるのは我が社だけ」と、横山氏の研究室助手だった千葉史取締役は自信を見せる。
当初は青森、秋田など東北が中心だったが、今は九州などからも受注が増加。遺跡情報データベースなども含めた文化財アーカイブ事業は順調に業績を伸ばし、設立から2年目で黒字に転換、3年目には累積赤字も償還して資本の増額も果たした。
ラングが開発したシステムは、考古学の発展に寄与するものとして、文化財の専門家から高い評価を得ている。平成20年5月からは盛岡市新事業創出支援センターへの入居も決まり、スタッフは次の目標に向かってチャレンジを続けている。
現在取り組んでいるのは、丸みを帯びた部分や影になった部分の3次元計測が難しいといわれる坪型や丸い形の「完形土器」で、さらなる技術開発が課題になっている。また、遺跡全体の図面の作成や石垣の解析もいずれは行っていきたいという。
平成19年3月、父から社長を受け継いだ横山真さんは弱冠35歳。「図の作成は従来職人技で、お金もかかるし、記録の精度にも限界があった。自動化することで情報の価値も上がります。どこにもない技術であり、理解者が徐々に広がっていることを日々実感しています」と語る。
答えがあっても答え合わせができない。永遠に謎めいているところに考古学のロマンを感じるという横山社長は、「より生の情報に近いように3次元の密度を高くし、ネットワークでみんながアクセスできるようにしたい。そして、世界から日本の縄文時代や石器時代に興味を持ってもらえたら面白い」と、ロマンを広げている。
よこやま・しん
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株式会社ラング
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