アイカムス・ラボは岩手大学の金型・トライボロジーの技術と、地域の精密加工技術と連携し、プラスチック歯車を中心に、マイクロメカニズムをコアとした製品と技術を開発している。
同社が、未来志向のコミュニケーションツールを世に送り出そうと、携帯電話と接続する超小型プリンタ「プリンパクト」を開発したのは、平成16年。続いて平成17年には携帯電話(NTTドコモFOMA)を使い、テレビ電話をしながら遠隔でカメラ視点を変え、部屋の様子などを知ることができる「テレビポケット」を発売し、注目を浴びた。
「ヤフーがトップで紹介してくれたこともあり、発売時は話題になりましたね。しかし、面白いけどキラーコンテンツが見つからないため、量産化には至らなかった。もしかしたら売れるかもしれないでは、商売は成り立たない。マーケティング、宣伝、販路などの総合力において、私たちのような小さな会社は太刀打ちできません。完成品を売ることの難しさを知らされました」と、片野さんは振り返る。
現在は受託開発をもう一つの事業として展開し、安定した収入を得ながら自社製品を開発している。「今日のめしと明日のめし」の両立が大切だと片野さんは言う。今日のめしは、今日の生計を得ること、明日のめしは未来への夢。両方が大切であり、そのバランスをどうとっていくのかが、経営の勘所なのだという。
アイカムス・ラボの設立は平成15年。片野さんはそれまで大手電気メーカーに勤めていたが、盛岡工場が閉鎖されることになり独立を決意した。「18年間会社に勤めてきたので、外に出て別なことをしてみたいと思っていた」という。
退社した片野さんは、自分の技術を生かした「小型IT機器用減速装置の開発」を平成14年度経済産業「地域新生コンソーシアム研究開発事業」に応募し、見事採択される。その研究過程で会社を設立し、一つの目標であった超小型プリンタを開発した。
超小型プリンタもテレビポケットも、コアの技術になっているのはマイクロ歯車である。一つの完成品として販売するハードルが高いなら、その部品(モジュール)を商品化して販売する方向に事業転換を図った。現在はこの技術を使用した計測医療機器、計測医療分析器などの精密部品が好調である。
「最初は欲張って完成品を売ろうとしたのですが、原点に立ち返ってまず自分たちの強みで勝負しようと。しかし、ヤフーでトップ紹介してくれたプリンタは今でも当社の営業をしてくれるので役に立っていますよ」と片野さんは笑う。
社員も増え、資本金も増額するなどアイカムス・ラボは順調に成長を遂げてきた。社内に入ると30歳前後という若い社員が多く、真剣な眼差しが熱い。
片野さんは起業以来、「大学と地場企業が連携することによって、商品の開発から製造まで一貫して行い、岩手でものづくりを完結する」という強い意思を持って進んできた。大手の企業からM&Aの話を持ちかけられたときは「子会社になるために会社をつくったのではない」と、即座に断った。
これまで幾つか紆余曲折はあったが、起業を志した信念を曲げることなく、岩手で開発して、ものづくりまで地場で完結するというビジネスモデルを確立しつつある。「製品の部品も地場産で、お客さんは外。外資を岩手に持ってくる地産外消を確立したい。最初からそういう地域貢献への思いで事業を進めてきたので、起業して良かったと思います」と片野さん。
起業してから5年。初めの1年間は八幡平市の古い貸し工場から出発した。「冬は寒くて中にいても凍るくらいでした。決してヌクヌクした環境ではなかったが、夢と希望があったので、苦労さえも楽しかった。それが最初の原点です」という言葉が力強く胸に響く。
かたの・けいじ
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株式会社アイカムス・ラボ
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