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岩手県は雑穀の生産日本一を誇る。中でもヒエは国産の8割を占めている。雑穀王国岩手にあって、西澤さんは岩手大学で長い間、アワ、ヒエ、キビがどのように健康に良い働きをしているかを研究してきた。
その研究成果を生かし、平成12年にベルグループとの共同で雑穀パンの第一弾「雑穀パンひえ」を開発する。この経験を踏まえ、平成17年3月に(有)いわて西澤商店を設立した。当時は岩手大学農学部教授として忙しい日々。仕事の合間を見て手続きに奔走し、岩手大学地域連携推進センターインキュベーション・ラボに入居した。
「雑穀の研究成果を岩手に残すには、論文ではなく形にしなければ貢献できない。岩手らしさを生かし、安心して食べられる食事パンをつくりたいと思った」というのが、起業の動機だ。
ここで開発した「雑穀と大地のめぐみのパン」は、雑穀のヒエと全粒小麦、全粒ライ麦を配合した全粒パンに近いブラウンブレッド。「ショートニングやマーガリンなどの油脂を使用していないので、発ガンや動脈硬化症、心臓病のリスクを高めると考えられる超悪玉脂肪のトランス脂肪酸を含んでいない。卵も使っていません」と、西澤さんが最も自信を見せる健康志向のパンだ。
しかも、岩手県産の農産物の資源・材料にこだわっており、畑作在来種の二戸市のヒエ、二戸産のライ麦、岩泉町の「龍泉洞の水」、洋野町大野の牛乳、そして大船渡の沖合の海洋深層水から製造した塩を使っている。実は、この塩も西澤さんが中心になって岩手大学と共同開発したものである。
現在、「雑穀と大地のめぐみのパン」は、西澤さんが洋野町(旧大野村)との共同研究で、廃校となった小学校を改装して設立した「おおのパン工房」で製造している。西澤さんは、このパン作りのトレーニングと、新たなパン商品の開発を目指して大野からインキュベーション・ラボに通ってきた工房のスタッフたちに、自ら指導に当たった。
健康志向が高まる中、雑穀はかつてのイメージを払拭し、健康食品の代表格として都会ではブームを呼んでいる。その追い風も受けて、「雑穀と大地のめぐみのパン」は、平成19年11月から東京都内での販売を開始した。
西澤さんは販路拡大に手ごたえを感じながらも、「何より雑穀を作っている農家が儲かるようにしたい」と強調する。「長年受け継がれてきた農文化を伝えるのも我々の役割です。昔のように農村が明るく賑わい、後継者が自然に出てくるように、岩手の農産物資源を生かして農業を活性化させ、事業化や地域雇用の創出に役立ちたいのです」
この3月で西澤さんは岩手大学の教授を退官したが、引き続き特任教授として学生たちを導いている。教授時代、講義の一つに「地域起業化論」があり、学生たちには「これからは100年生きる時代。小さくてもいいから自分で会社をつくってやりたいことをやろう。財力があっても夢がなければダメ。新しいものを創り出す喜びを感じてほしい。最初は自分の力量がわからないから、よきアドバイザーをつけて、1年かけてしっかり準備をすることが必要だ」と、起業スピリッツを説いている。
これからは少し時間ができると思いきや、念願の岩手産小麦粉100%のヒエ入り全粒ライ麦パンを完成したばかりで、この商品化を目指して西澤さんは相変わらず忙しい日々が続いている。
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にしざわ・なおゆき
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有限会社いわて西澤商店
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